民間から教育を組み替える──RePlayce山本将裕氏が描く「HR×教育」の実装戦略
Startup Vision Interview #15
民間から教育を組み替える──RePlayce山本将裕氏が描く「HR×教育」の実装戦略
日本の教育現場が静かに崩壊しつつある。文部科学省の調査によれば、2023年度に精神疾患で休職した公立学校教員は7,119人で初めて7,000人を超え、過去最多を記録。教員採用試験の倍率は2024年度実施で2.9倍と、調査開始以来初めて3倍を切り過去最低となった。 少子化も加速する中、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2020年から2040年までの20年間で若年人口(0〜14歳)は約24%減少する見込みだ。この構造的危機に対し、従来の公教育システムだけで対応できるのか──。 RePlayce(リプレイス)は、この問いに民間企業の立場から挑戦している。中高生向けキャリア教育プログラム「TANQ BASE(タンキューベース、旧・はたらく部)」と、通信制高校サポート校「HR高等学院」を運営し、企業や自治体と連携しながら次世代の人材育成エコシステムを構築している。 代表取締役CEOの山本将裕氏は、NTT東日本に勤務していた時代に東日本大震災を経験し、これを機に「世のため人のためになる仕事」を追求してきた。ドコモで社内起業家育成に携わりながら、自らスピンアウト第1号として独立。教育事業という投資家から敬遠されがちな領域で、2年弱で複数回の資金調達を実現し、急成長を遂げている。 「義務教育は中学までで十分。高校以降は、民間がもっと関わっていい」──そう語る山本氏の構想は、日本の教育システムそのものの再定義を目指している。HRと教育の垣根をなくし、民間企業の優秀な人材が子供たちの育成に参画する社会。その実現に向けた挑戦の軌跡を追う。
インタビュイー
2010年にNTT東日本に入社。初期配属である宮城県石巻支店では東日本大震災で死にかける。2015年よりNTTグループ内組織活性有志活動「O-Den」を組成。翌年には、大企業50社の企業内有志団体が集う実践コミュニティONE JAPANの共同発起人となる。2019年にはBEYOND MILLENNIALS2019、内閣府オープンイノベーション大賞経団連会長賞受賞。2020年独立し、フリーランスでスタートアップのアクセラレーターを実施。その後、ドコモへ入社。企業内大学ドコモアカデミーを立ち上げ学長として1,000人以上の人材を育成。新規事業開発プログラムドコモスタートアップ事務局をしながらはたらく部を立ち上げ。2023年キャリアオーナーシップ経営AWARD2023優秀賞を受賞。はたらく部がキャリア教育アワードを受賞。
2024年にはたらく部をスピンアウトし株式会社RePlayceを創業。
ミッション
日本の教育現場が静かに崩壊しつつある。文部科学省の調査によれば、2023年度に精神疾患で休職した公立学校教員は7,119人で初めて7,000人を超え、過去最多を記録。教員採用試験の倍率は2024年度実施で2.9倍と、調査開始以来初めて3倍を切り過去最低となった。
少子化も加速する中、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2020年から2040年までの20年間で若年人口(0〜14歳)は約24%減少する見込みだ。この構造的危機に対し、従来の公教育システムだけで対応できるのか──。
RePlayce(リプレイス)は、この問いに民間企業の立場から挑戦している。中高生向けキャリア教育プログラム「TANQ BASE(タンキューベース、旧・はたらく部)」と、通信制高校サポート校「HR高等学院」を運営し、企業や自治体と連携しながら次世代の人材育成エコシステムを構築している。
代表取締役CEOの山本将裕氏は、NTT東日本に勤務していた時代に東日本大震災を経験し、これを機に「世のため人のためになる仕事」を追求してきた。ドコモで社内起業家育成に携わりながら、自らスピンアウト第1号として独立。教育事業という投資家から敬遠されがちな領域で、2年弱で複数回の資金調達を実現し、急成長を遂げている。
「義務教育は中学までで十分。高校以降は、民間がもっと関わっていい」──そう語る山本氏の構想は、日本の教育システムそのものの再定義を目指している。HRと教育の垣根をなくし、民間企業の優秀な人材が子供たちの育成に参画する社会。その実現に向けた挑戦の軌跡を追う。
震災が変えた人生観

2011年3月11日、東日本大震災。マグニチュード9.0という観測史上最大規模の地震は、東北地方を中心に未曾有の被害をもたらした。津波による死者・行方不明者は約1万8,000人。特にインフラ企業にとって、この災害は通信網の寸断、電力供給の停止など、社会基盤の脆弱性を露呈させる出来事となった。NTT東日本も甚大な被害を受け、多くの社員が復旧作業に従事した。当時宮城県石巻市に赴任していた山本氏も、その一人だった。
震災から数年後、2015年前後の日本では、スタートアップエコシステムが急速に形成されつつあった。アベノミクスの成長戦略の一環として、政府がベンチャー支援を強化。2013年には産業競争力強化法が施行され、「日本再興戦略」においてベンチャー・エコシステムの構築が明記された。大手IT企業が相次いでアクセラレータープログラムを立ち上げ、大企業とスタートアップの協業が活発化していた時期だ。
NTT東日本のような伝統的な大企業も、この潮流と無縁ではいられなかった。イノベーションのジレンマに直面し、外部との連携による新規事業創出が喫緊の課題となっていた。オープンイノベーションという言葉が経営層の間で飛び交い、社内でも新たな取り組みが模索され始めていた。山本氏がその担当者として抜擢されたのは、こうした時代背景があった。
- インタビュアー
- 3.11の経験は、その後の人生やキャリア観にどんな変化をもたらしましたか。
- 山本
-
津波で3日間社屋に閉じ込められて、人が流されるのをたくさん見ました。周りで知っている方も亡くなりました。そこで感じた「人間って簡単に死んでしまうんだな」というのが、あの時から頭から離れない感覚です。
それまでは自分の人生を自分のために生きるということを考えていましたが、3.11を経験してからは、一度きりの人生なので、世のため人のためになることをやらないと後悔するだろうという思いが強くなりました。
自分のことだけ考えて生きていても、多分死ぬときに後悔するだろうと思ったんです。世のため人のためになる仕事をして、自分の人生を全うしたいという思いが、あの日を境に自分の中で確固たるものになりました。それからずっと、何か社会に価値を提供できることをやりたいという軸で、キャリアを考えるようになりました。
- インタビュアー
- もともと起業家志向はなかったそうですが、起業を意識するようになった転機は何だったのでしょうか。
- 山本
-
NTT東日本にいた当時は、職務を全うすることで頭がいっぱいで、それが自分にとっての社会貢献だと考えていました。社会インフラを持っている会社なので、電話回線やインターネット回線を通じて、社会を支えるという仕事自体には誇りを持ってやっていました。起業家という生き方があることすら、当時はあまり認識していなかったというのが正直なところです。
転機となったのは、NTT東日本の本社の開発部署に異動した2015年頃のことです。スタートアップやオープンイノベーションという言葉が耳に入るようになり、大企業が運営するコーポレートアクセラレータープログラムが次々と出てきていた時代です。
NTT東日本でも、社内でオープンイノベーションの取り組みを立ち上げて予算化もしました。その中で起業家さんと触れ合う機会が大幅に増えたんです。当時は自分とは全然違う属性の人たちだと思っていましたが、大企業のリソースを使うことで事業が成長したり、お客様に価値が届く瞬間を何度も目の当たりにしました。
彼らの情熱やスピード感、社会課題に対する直接的なアプローチに非常に刺激を受けて、そういった光景を見ていく中で、「いつか自分もスタートアップの社長、起業家側をやりたいな」と思うようになりました。
その後、NTT東日本を退社後にフリーランスを経て、NTTドコモに入社しました。NTTドコモでは社内起業家を育成する事務局側を担当することになり、そこで制度設計や支援の仕組みを作る側に回りました。それが結果的に、自分自身のスタートアップがスピンアウトする時に役立つ貴重な経験になりましたね。
中高生向けキャリア探究サービス「はたらく部」誕生

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、日本の学校現場は大きな混乱に見舞われた。2月末、政府は全国の小中高校に一斉休校を要請。学校教育のデジタル化の遅れが一気に露呈した。文部科学省の調査によれば、2020年4月時点で公立学校の5%しか双方向型のオンライン授業を実施できていなかった。GIGAスクール構想(2019年に開始された、全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み)は前倒しで進められたが、現場の対応は追いつかない状況だった。
一方、民間企業ではリモートワークが急速に浸透し、オンライン会議ツールの利用が当たり前になっていた。社会のデジタル化が一気に加速する中、教育現場との格差は広がる一方だった。この状況を、山本氏は「教育業界が最も変化を迫られている」と捉えていた。変革のチャンス──そう考えていた矢先、大企業の若手・中堅社員を中心とした有志団体ONE JAPAN(ワンジャパン)での活動を通じて、都立高校の教員から相談を受けることになる。
キャリア教育の現状も深刻だった。文部科学省は2016年に「キャリア・パスポート(児童が学習・生活・成長を記録し、将来のキャリア形成に繋げるための仕組み)」の導入を決定し、2020年度から全国の小中高で実施されることになったが、現場では形骸化している実態があった。企業との連携も十分ではなく、実社会との接点が乏しいまま、生徒たちは進路選択を迫られていた。中高生向けのキャリア教育で事業化に成功している例はほとんどなく、多くの企業が参入しては撤退を繰り返していた領域でもあった。
- インタビュアー
- 教育事業に関わるようになった背景と、現場で感じた課題について伺えますか。
- 山本
-
もともとONE JAPAN(ワンジャパン)という大企業の若手・中堅社員を中心とした有志団体のプラットフォームで活動していたんです。2020年か2021年頃、都立高校の先生から「キャリア教育が遅れているから何とかできないか」というご連絡をいただいて、それが教育分野に触れた最初のきっかけです。
同時期に、コロナ禍で一番変化が起こりそうな業界を調べている中で、教育はもっとオンライン化が進んだり、コロナをきっかけに大きな変革が起きる可能性が非常にあると思っていました。学校が休校になったり、オンライン授業が始まったりと、まさに教育現場が激変している時期でしたから。最初はその先生だけと話していたんですが、実際に学校に行ってみると、昔と全然変わっていないなと感じて驚きました。
卒業してから学校になんて久しぶりに行きますよね。でも、学校を訪れてみると、教室の雰囲気も、授業のやり方も、先生と生徒の関係性も、自分が学生だった頃とほとんど変わっていないんです。社会は猛スピードで変化しているのに、学校だけが取り残されているような印象を受けました。これは非常に危機的な状況だなと思いました。このままでは子供たちが社会に出た時に、大きなギャップに苦しむことになるのではないかと。
- インタビュアー
- マネタイズが難しいと言われる教育分野に、あえて挑戦した理由は何だったのでしょうか。
- 山本
-
キャリア教育で事業になっているものは、あまりないですよね。緊急性が少ない、効果測定が難しい、即時性が無いなどいくつか理由はありますが、ビジネスとして成立させるのは難しいと周りの人から言われました。
でも、難しいのであれば、もしできたらチャンスがあるということだなと思ったんです。誰もやっていない、誰も成功していないということは、逆に言えば、そこで成功すれば唯一無二のポジションを取れるということですから。そういう発想で始めました。
2022年にNTTドコモの社内事業としてサービスを開始して、そこから検証を重ねていきました。独立については、もともとスタートアップに憧れがありましたし、NTTドコモの社内起業家を育成する事務局側をやっていたので、私自身もこういう制度ができたら1号案件として出たいと手を挙げました。
その時に現「HR高等学院」の構想もあったので、いっそのこと学校も作ろうという動きになりました。成田修造さん(HR高等学院の共同設立者でパートナー)も巻き込んで、かなり面白いことができそうだという確信も持てましたし、資金調達の目途も立ったので、スピンアウトする決断をしました。
マネタイズモデルの確立

教育事業、特にキャリア教育でのマネタイズは業界の難題だった。教育事業大手でさえ、中高生向けキャリア教育のマネタイズには苦戦している。学校は予算が限られ、生徒から直接課金するモデルは保護者の理解を得にくい。多くの企業が社会貢献やCSRの一環として無償でプログラムを提供する中、持続可能なビジネスモデルを構築するのは容易ではない。
RePlayceが着目したのは、コンテンツの多チャネル展開だった。教育業界では珍しい、BtoB、BtoG(自治体)、BtoC(生徒)の三方向で収益を上げる仕組みだ。特に企業向けは人材採用難の時代背景が追い風となっている。帝国データバンクの2024年調査では、企業の52.6%が正社員不足を訴えており、特に若手人材の確保は多くの企業にとって死活問題だ。早期から学生との接点を持ちたいというニーズは強い。
自治体向けも市場が拡大している。デジタル田園都市国家構想の一環として、各自治体は若者の地元定着や人材育成に力を入れている。横須賀市のように、デジタル教育を市の重点施策に掲げる自治体も増えており、予算も確保されやすい。静岡県の高校生向けアントレプレナーシップ育成プログラムも、県の産業振興と若者育成を結びつけた戦略的な取り組みだ。
通信制高校サポート校市場も成長している。文部科学省の学校基本調査によれば、通信制高校の生徒数は年々増加し、2023年度は約26万人に達した。不登校生徒の増加(2024年度は約35万人と過去最多)も背景にある。従来型の学校に馴染めない生徒の受け皿として、通信制高校とサポート校の需要は高まる一方だ。
- インタビュアー
- TANQ BASEとHR高等学院は、どのようにマネタイズモデルを組み立てているのでしょうか。
- 山本
-
一度作ったコンテンツを複数のチャネルで活用しています。HR高等学院で使っている教材やプログラムを、TANQ BASEとして他の学校や企業にも提供する仕組みです。そうすれば、開発コストを複数のチャネルで回収できますし、実際のスクールで試してブラッシュアップしたコンテンツを日々アップデートしながら外販もできるので、品質も担保できるというメリットがあります。
一度コンテンツさえ作ってしまえば、それを複数の企業や自治体に提供できます。教育サービスとセットで講師も派遣する場合もあれば、カリキュラムだけを単体で販売することもあります。スクール運営は人件費がかかりますが、企業向けの外販でそこをカバーしています。企業向けは学校向けよりも予算規模が大きいので、収益面での貢献度は非常に高いです。
- インタビュアー
- 実際の導入事例や、企業・自治体の狙いについて教えてください。
- 山本
-
静岡県では「FuJI(Future Japan Innovator)」という高校生向けのアントレプレナーシップ教育のプログラムをやっていて、参加した高校生からも非常に好評をいただいています。起業家マインドを育てるようなプログラムですね。
横須賀市は、デジタル教育でかなり有名な自治体なんですが、高校生と市役所職員が一緒に地域の課題解決に取り組むプログラムを提供しています。メタバース空間上で横須賀市職員と高校生が街づくりのテーマについて考えたり、実際に提案をまとめたりするような、かなり実践的な取り組みです。若い世代に新しい学びの機会を提供したいという明確な意図があります。
企業では、将来の採用候補者とのパイプライン作りや、新規事業のアイデア創出という観点で導入されることが多いですね。学生の斬新な発想を取り入れたいというニーズは、意外と強いんです。
- インタビュアー
- 「はたらく部」から「TANQ BASE」へのブランド変更の狙い、そして、プログラムに参加した生徒の変化についてどう感じていますか。
- 山本
-
より実態に近い形にしたかったんです。探究的な学びを促進することが学校の中での大きなテーマになっているので、単なるキャリア教育ではなく探究学習に近い形に名前を変更しました。また、そもそも「はたらく」という言葉が、学生からすると非常にネガティブなんですよ。学生は将来、働きたくないと思っている人が圧倒的に多いので、「探究」という言葉の方が、前向きで好奇心を刺激するニュアンスがあると思います。
TANQ BASEでは、キャリア教育や社会教育など、探究的で正解のないことに対してとにかく考えるというテーマを扱っています。このプログラムに関わった生徒は、間違いなくコミュニケーション能力が著しく向上します。特に言語化する力が養われます。
実社会では、面接やグループワークで大きな成果を発揮しています。TANQ BASEでは毎週必ずグループワークをしていますし、HR高等学院では、毎日のように仲間や大人と話す機会がある環境なので、コミュニケーション能力、言語化能力が、大人と変わらないレベルまで向上します。
スピンアウトの現実

日本企業におけるスピンアウト(カーブアウト)は、欧米に比べて極めて少ない。経済産業省の調査によれば、日本でのスピンアウトは年間数十件程度に過ぎず、アメリカの数百件と比べると大きな差がある。背景には、終身雇用を前提とした日本型雇用システム、失敗を許容しない企業文化、そして煩雑な社内手続きがある。
大企業からのスピンアウトには、いくつかの典型的なハードルが存在する。第一に、事業の切り離しに関する社内承認プロセス。投資委員会、取締役会、場合によっては株主総会の承認が必要となる。第二に、バリュエーション(企業価値評価)の問題。社内では低く、外部投資家には高く評価してもらう必要があり、この矛盾をどう解消するかが鍵となる。第三に、期限の制約。多くの企業は半年から1年程度の期限を設け、それまでに外部資金を調達できなければ事業を終了させる。
VCの投資姿勢も厳しい。特に教育分野は、「ソーシャルグッド」ではあるが「儲からない」という認識が強い。日本ベンチャーキャピタル協会のデータでは、教育分野への投資は全体の3%程度に過ぎない。また、IT、ヘルスケア、フィンテックなどに比べて投資額は圧倒的に少ない。山本氏が直面したのは、まさにこうした構造的な困難だった。
- インタビュアー
- スピンアウトで苦労した点は何でしたか。
- 山本
-
スピンアウトのプロセスは、正直かなりハードでした。まずNTTドコモ側では、一度事業を終了させたうえで、その事業を副業で立ち上げていたRePlayceが買収する、という形をとりました。そのため、NTTドコモからのバイアウト手続きと社内投資委員会への対応が必要でした。
同時に、RePlayce側ではVCからの資金調達を進める必要があり、さらにNTTドコモからも出資を受けるため、その調整も並行して行わなければなりませんでした。
この一連のプロセスを、半年という限られた期間で同時並行で進める必要がありました。昼間はNTTドコモ社内の調整、夕方以降はVCとの面談、夜は資料作成という生活が続き、精神的にも体力的にも厳しい時期でした。
- インタビュアー
- VCの反応と、これから挑戦する人へのアドバイスをお願いします。
- 山本
-
VCは、30〜40社くらいは回りました。教育事業というだけで断られることも多く苦労しました。「教育はポートフォリオに入れていない」「教育は良い事業だと思うけど、成長スピードが遅い」「社会的意義は理解できるが、投資リターンが見込みにくい」といった理由です。その中で実際に話が進んだのはほんの数社で、最終的に出資してくれたのはさらにその中の一部です。でも、そうやって何十社も回る中で、本当に理解してくれる投資家と出会えたので、結果的には良かったと思います。その投資家たちとは、今も深い信頼関係が築けています。起業家の皆さんは、VCとの関係づくりは、早めに始めておいたほうがいいと思います。
また、NTTドコモでは、スピンアウトを支援する制度を自ら作ったわけですが、制度があるからといって、簡単にスピンアウトできるわけではありません。一人の力だけでは限界がありますし、社内を巻き込んだり、場合によっては会社のルールを変えにいくくらいの覚悟がないと、かなりハードルは高いです。経営層はもちろん、人事、法務、財務など、関係する部署の協力が欠かせません。できるだけ早い段階から社内で味方を作り、根回しをして、味方をつくっておくことをおすすめします。
組織と資本戦略

Photo credit: RePlayce
スタートアップの成否は、チーム構成に大きく依存する。特に共同創業者の選定は極めて重要だ。Y Combinatorの調査によれば、失敗したスタートアップの65%がチーム内の不和を理由に挙げている。一方、成功したスタートアップの多くは、創業者間の強固な信頼関係と役割分担の明確さを特徴としている。
RePlayceの3人の共同創業者は、全員がNTTドコモ時代からの同僚だ。既に一緒に働いた実績があり、互いの強みと弱みを理解している。こうした「既知の関係」は、スタートアップの初期段階での意思決定スピードと実行力を大きく高める。
もう一つ注目すべきは、CVCからの資金調達だ。近年、日本でもCVCの活動が活発化している。経済産業省の調査では、国内CVCの投資額は2023年で約2,000億円に達し、10年前の5倍以上に成長した。積水ハウスなどの事業会社が、単なる財務リターンだけでなく、戦略的シナジーを求めてスタートアップに投資している。
- インタビュアー
- 共同創業者それぞれの役割をどう分担していますか。
- 山本
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共同創業者の篠田桂介(Cleative studio コンテンツディレクター )が、教材の内容が本当に生徒のためになっているか、プログラムの質が高いかといったことを常にチェックしています。もう一人の共同創業者である荒川雅矢(サービス運営事業部 TANQ BASE オペレーションマネージャー)は、スクールのオペレーション——生徒の管理から講師のシフト調整、施設の運営まで、あらゆる実務を取り仕切っています。私が全体の戦略や資金調達、対外的な交渉などを担当しています。3人ともNTTドコモ時代から一緒にやってきたので、阿吽の呼吸で動けるというのが強みです。
- インタビュアー
- HR高等学院の共同設立者である成田修造さんとは、どのような経緯で出会ったのですか。
- 山本
-
Xで私からDMを送ったのがきっかけです。成田さんが『14歳のときに教えてほしかった 起業家という冒険』という本を出版されて、その本の内容が非常に良くて、これは学生に読ませたいなと思ったんです。
それで「100冊買ったら何でも言うこと聞きます」とXで投稿されていたので、その数時間後に、本当に100冊買ったAmazonの領収書のスクリーンショットと一緒にDMを送りました。1冊1,580円ですから、100冊で15万8,000円です。
最初にお会いした時、彼の教育に対する情熱と、起業家としての経験値の高さに驚きました。本を100冊買うというアプローチは奇抜だったかもしれませんが、それくらいのインパクトがないと、忙しい起業家の時間を奪えないと思ったんです。15万円でHR高等学院の共同設立者として一緒にやってもらえているので、非常に良い投資だったと思います。
- インタビュアー
- CVCや事業会社が出資する背景をどう捉えていますか。
- 山本
-
投資いただいた積水ハウスのCVCからは、初号案件として出資いただきました。年間出生率は70万人を切っていて、あと20年後には若年人口が約24%減少する中で、積水ハウスとしては、若い人との接点を持つこと、きちんと学んでいける環境を企業が提供する仕組みに共感いただいています。
CVCからの出資は、単なる資金提供以上の価値がありますね。積水ハウスは、顧客基盤やブランド力を持っています。彼らのネットワークを通じて、私たちは新しい顧客や提携先にリーチできる。また、彼らの事業知見やノウハウも、私たちの事業成長に大いに役立っています。
全国展開を加速させるためには、さらなる資金が必要になります。ただ、単に資金を集めるだけではなく、本当に私たちのビジョンに共感してくれる投資家と組みたいと考えています。長期的なパートナーシップを築ける相手を、慎重に選んでいきたいですね。
教育改革へのビジョン

日本の教育制度は、戦後の高度経済成長期に形成された枠組みが、今なお色濃く残っている。1947年に施行された教育基本法と学校教育法に基づき、6・3・3・4制が確立。義務教育は9年間、その後の高校教育は事実上の「準義務教育化」し、大学進学率は現在54%を超える。
しかしこの制度は、終身雇用と年功序列を前提とした昭和型雇用システムとセットで機能していたものだ。「良い大学」を出れば「良い企業」に就職でき、定年まで安泰──この図式は既に崩壊している。
経団連の調査では、終身雇用を維持できると回答した企業は2割を切る。転職が当たり前となり、副業・フリーランスも増加。働き方の多様化が進む中、画一的な教育システムとのミスマッチは拡大する一方だ。
構造改革特区制度により、2004年から株式会社等による学校設置が可能になった。現在、全国で約30校の株式会社立高校が存在するが、公立学校に比べると数は圧倒的に少なく、認知度も低い。規制も多く、補助金も限定的だ。それでも、カドカワのN高等学校(N高)のように、ITを活用した新しい教育モデルで成功を収める事例も出てきている。
一方、経済産業省の「未来の教室」実証事業には、多くの企業が参画。企業が持つ最先端の知見を教育現場に届ける取り組みが進んでいる。ただし多くは単発のプログラムであり、持続的なエコシステムには至っていない。RePlayceが目指すのは、こうした取り組みを超えた、構造的な変革だ。
- インタビュアー
- 高校以降の学びを、どのように設計すべきだと考えていますか。
- 山本
-
憲法で定められている義務教育は中学までですし、高校以降の選択肢は、もっと多様であっていいと考えています。全員が同じような高校教育を受ける必要はなくて、それぞれの興味や適性に応じた多様な学びの場があっていい。株式会社がもっと教育に関わることで、その多様性が実現できると思っています。
また、今、教員はうつ病などの精神疾患が理由で休職する人がとても多く、採用倍率も過去最低です。「まともな人が採用できない」と嘆く学校関係者も少なくありません。学校という制度全体が崩壊しつつある中で、民間には優秀な人がたくさんいるので、民間企業がもっと育成に関われたらいいと思います。
「HR高等学院」という名前にHRを入れているのは、HRの領域と教育の領域の垣根をなくしたいからです。RePlayceという社名も、「Replace(置き換える)」と「Place(場所)」と「Play(あそぶ)」を組み合わせた造語で、教育をワクワクするものに置き換えるという意味も込めています。
民間企業がどんどん子供たちに教育を提供して、人材開発をして、社会で活躍してもらう。企業は人材を採用して育成するだけではなく、高校生の段階から関わっていって、一緒に育てていく。そして卒業後は自社で採用してもいいし、他の会社に行ってもいい。社会全体で若い人を育てるという発想です。全国に学びの校舎をどんどん作って、事業として大きくしていきたいですね。
- インタビュアー
- そうした構想を実現する上で、企業や高卒人材はどんな役割を果たすと考えていますか。
- 山本
-
企業には、「学生の豊かな発想やアイデア、熱量に触れられる」という話をしています。学生のアイデアって本当に面白くて、「神様を作るアプリ」みたいに、普通の社内起業家では出てこない発想がたくさん出てきます。そうした若い世代ならではの視点を取り入れれば、新規事業開発にもつながります。NTTドコモの社内起業家育成制度のドコモスタートアップと連携した際も、社内で出てこないアイデアがたくさん出てきて大好評でした。
一方で、採用観点でいくと、JTC(Japanese Traditional Company)が高卒をもっと積極的に採用し始めたら、社会全体はかなり変わると思っています。今は、目的意識がないまま大学に進学してしまうケースも多いですが、それ自体が必ずしも最適とは限りません。高卒で活躍できる道を用意し、企業がきちんと育成する仕組みを整えれば、学歴による格差も縮まるはずです。
経営層の意識改革も欠かせません。「大卒じゃないとダメ」という思い込みを捨て、高卒者を育てる研修やメンター制度を整えることで、若いうちから実務経験を積める環境が生まれます。結果として、企業にとっても成長スピードの速い人材を確保できるようになります。JTC側にとっても、分かりやすいメリットを設計していくことが重要だと思います。

東日本大震災での経験から始まった山本将裕氏の起業家人生は、「世のため人のため」という一貫した軸によって貫かれている。NTT東日本、NTTドコモという大企業の中でスタートアップエコシステムに触れ、自らもその世界に飛び込んだ。
教育事業という、多くの投資家が敬遠する領域に挑戦し、2年弱で複数回の資金調達を実現。その背景には、明確なビジネスモデルと、教育×HRという独自のポジショニングがある。
山本氏の真の野望は、日本の教育システムそのものを変革すること。教員不足と質の低下が進む中、優秀な民間人材が子供たちの育成に携わり、キャリアの自律を支援する。HRと教育の垣根をなくし、企業が教育に投資をする。。高卒採用を促進し、大学進学神話を再考する。
出生率が70万人を切り、20年後には若年人口が約24%減少する社会。その中で、次世代をどう育てるのか。RePlayceの挑戦は、この問いへの一つの明確な回答だ。民間が担う次世代育成の未来。その最前線で、RePlayceは走り続けている。
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