「歩く」を技術で再定義する——Ashirase千野歩氏が視覚障害者支援から始める社会実装のカタチ

「歩く」を技術で再定義する——Ashirase千野歩氏が視覚障害者支援から始める社会実装のカタチ

「歩く」を技術で再定義する——Ashirase千野歩氏が視覚障害者支援から始める社会実装のカタチ

STORIUMが応援するスタートアップの魅力に光を当てるストーリー。今回は、Ashirase代表取締役CEOの千野歩氏のインタビューをお届けします。 「人は、外的要因がなくても単独で死亡事故を起こす」——。それは、転倒や転落、道に迷うといった些細な出来事が、命に直結しかねないという現実でもある。 ホンダで自動運転やEVモーター制御など自動車の安全技術開発に携わっていた千野歩氏が、親族の転落事故を機に気づいたのは、「歩行もモビリティ」という視点だった。クルマには安全技術が組み込まれているのに、人が歩くという行為にはほとんどテクノロジーが介在していない。この気づきが、Ashirase誕生の原点となった。 2021年4月、ホンダの新規事業創出プログラム「IGNITION」第1号スタートアップとして設立されたAshiraseは、視覚障害者向けの歩行支援デバイス『あしらせ』を開発・販売している。靴に装着することで、足元の触覚に情報を伝え、目が見えなくても安全に誘導する振動デバイスだ。 CES2023イノベーションアワード、グッドデザイン賞2022年金賞、Jスタートアップ認定など国内外で評価を得ており、2025年のフランスのVivaTechでは、注目すべき6社に選出されるなど評価は高い。そして今、これまでに培った技術を応用し、視覚障害者だけでなく、あらゆる人が使えるユニバーサルなサービスへと進化しつつある。

インタビュイー

株式会社 Ashirase 代表取締役CEOのプロフィール写真
千野 歩 株式会社 Ashirase 代表取締役CEO
2008年株式会社本田技術研究所に入社、自動運転車や電気自動車の制御系エンジニアとして従事。 2021年に株式会社Ashiraseを創業、代表取締役に就任。

株式会社 Ashirase

スタートアップ
東京都 2021年4月設立
私たちは視覚障害者向け靴装着型ナビゲーションデバイスと専用地図アプリの「あしらせ」を開発・販売するスタートアップ企業です。Hondaの新規事業創出プログラム「IGNITION」の第1号として、同社出身エンジニアを中心に2021年創業しました。 当事者の利便性にこだわって顧客満足度を高めており、独自のインターフェース・評価アルゴリズムなどの開発を進めています。 今年度は海外展開を開始するほか、国内外で第二の柱となる新事業の構想を進めています。 ・国内外特許複数取得    ・2023年 J-startup認定

STORIUMが応援するスタートアップの魅力に光を当てるストーリー。今回は、Ashirase代表取締役CEOの千野歩氏のインタビューをお届けします。

「人は、外的要因がなくても単独で死亡事故を起こす」——。それは、転倒や転落、道に迷うといった些細な出来事が、命に直結しかねないという現実でもある。

ホンダで自動運転やEVモーター制御など自動車の安全技術開発に携わっていた千野歩氏が、親族の転落事故を機に気づいたのは、「歩行もモビリティ」という視点だった。クルマには安全技術が組み込まれているのに、人が歩くという行為にはほとんどテクノロジーが介在していない。この気づきが、Ashirase誕生の原点となった。

2021年4月、ホンダの新規事業創出プログラム「IGNITION」第1号スタートアップとして設立されたAshiraseは、視覚障害者向けの歩行支援デバイス『あしらせ』を開発・販売している。靴に装着することで、足元の触覚に情報を伝え、目が見えなくても安全に誘導する振動デバイスだ。

CES2023イノベーションアワード、グッドデザイン賞2022年金賞、Jスタートアップ認定など国内外で評価を得ており、2025年のフランスのVivaTechでは、注目すべき6社に選出されるなど評価は高い。そして今、これまでに培った技術を応用し、視覚障害者だけでなく、あらゆる人が使えるユニバーサルなサービスへと進化しつつある。

原体験から始まった挑戦と、社会課題ビジネスが直面する市場の壁

日本では高齢化の進行とともに、移動弱者の問題が年々深刻化している。一方で、モビリティ領域の投資資金は、自動運転やEV、MaaSといった「派手な領域」に集中し、歩行支援のような地味な分野は後回しにされてきた。

福祉やアクセシビリティ領域は、社会的意義が高い反面、「市場が小さい」「スケールしにくい」という理由で、VCマネーが入りづらい構造を抱えている。理想と収益性の間で、多くの起業家が撤退を余儀なくされてきたのも事実だ。

その中で、エンジニア出身の起業家が、あえてこの領域に挑み、スタートアップとしての成長モデルを構築しようとしている。原体験から生まれた課題意識は、どのように事業へと翻訳されていったのか。その意思決定の裏側に迫る。

インタビュアー
自動車の安全技術開発に携わっていた千野さんが、なぜ人間の「歩行」という領域に目を向けることになったのでしょうか。
千野

2018年、妻の祖母が川沿いを歩いていて転落し、亡くなるという事故がありました。当時、私はホンダで自動運転の安全性論証やEVの発火防止など、安全技術開発に携わっていました。その時に最初に思ったのが、「人は外的要因がなくても、自動車のように単独で死亡事故を起こす」ということでした。

もしかしたら歩行もモビリティとして捉えられるのではないか。モビリティであれば、もう少しテクノロジーが入っていてもいい。今まで培ってきた技術やナレッジを活かして、人の豊かさにつなげることができるのではないかと考えました。

また、事故の背景に目が不自由だったことが関係しているという話があり、「歩行」と「視覚障害」という2つのキーワードが浮かび上がりました。当時は、栃木県にあるホンダの技術研究所で仕事していましたので、そこからも近い、宇都宮市の福祉センターに電話をして話を聞かせてほしいと依頼したのが、視覚障害者の方々とやり取りを始めた最初の一歩です。

インタビュアー
新規事業としてホンダ社内で進める選択肢もあったと思いますが、独立を選んだのはなぜでしょうか。また、独立したことで、さまざまな困難もあったと思いますが、どのように乗り越えてこられたのですか。
千野

当初から社内でやることはあまり考えていませんでした。ホンダの新規事業創出プログラム「IGNITION」は、スタートアップを数多く生み出すことで社会課題を解決していこうという趣旨で、ホンダは影から支えるという立て付けです。もともと私は、ホンダで働きながら一緒にやってくれるメンバーと休日や夜に活動していました。社外のメンバーもいたため、社会実装を目指すのであれば外でやるしかないと思っていました。

独立してスタートアップとしてやるには、投資家からの資金調達が必要になります。ここで、ビジネスとして捉えた時に課題になるのは、「視覚障害者」という市場規模(日本の視覚障害者の数は30万人)です。成長のためには資金が必要で、それをエクイティで調達してレバレッジをかけるということは、急成長が求められるということです。その課題に対して、私の理想と、投資家などから求められるビジネスの両面で、いいバランスを取るよう意識しています。

市場規模にはさまざまな見方がありますが、当社の製品はチャーン率が非常に低く、ユーザーの利用期間が非常に長いため、LTVで言えば非常に高くなります。1人が長く使って払ってくれるのであれば、市場としては大きく見ることができるわけです。市場規模を長期的な視点で捉えると、非常に大きな市場がそこにあります。一人のユーザーが長く使い続けてくれるため、生涯価値で見れば大きな市場になる、という考え方です。

もう一つは、「社会課題だからこそ市場ができていない」という視点です。「市場ができていないから社会課題」なのです。そこを解決できる手法を投入していけば、お金が流れ込んでいくというのが経済の原理だと思っています。視覚障害者の課題を解決する事業だけでは難しいのであれば、新しい事業を作っていくことも選択肢の一つになってきます。

初クラファンで顧客満足度30%の低評価、ユーザーとの対話で改良を重ね一気に逆転へ

近年、ハードウェア系スタートアップや医療・福祉系ベンチャーにとって、クラウドファンディングは単なる資金調達手段ではなく、「最初のPMF検証装置」として機能している。市場が冷酷にプロダクトの完成度を突きつける場でもある。

特に当事者性の高い領域では、ユーザーは妥協しない。わずかな不便さや設計ミスが、致命的な不満につながる。技術的に優れているだけでは、継続利用も口コミも生まれない。

初期評価でつまずいたスタートアップが、そのまま失速する例は少なくない。だが一方で、初期失敗を起点に、プロダクトと組織を飛躍的に進化させる企業も存在する。Ashiraseは、なぜ「満足度30%」という厳しい現実を跳ね返すことができたのか。そのプロセスには、プロダクト経営の本質が凝縮されている。

インタビュアー
初期の『あしらせ』がクラウドファンディングで満足度30%という厳しい結果になった要因は何だったのでしょうか。そして、その問題をどのように克服されましたか。
千野

非常に辛い時期でした。一番の要因は、オンボーディングの難しさでした。販売前は私たちがユーザーになってくれる視覚障害者と一緒に歩いてセッティングも全て手伝っていました。しかし実際に販売すると、届いた箱を視覚障害者が自分で開けて、デバイスを取り出して、靴につけて、ペアリングをして、アプリを登録してナビを開始して歩いていく——これら全てを自分でやらなければなりません。

当時は、他の多くの、目が見える方向けの製品と同じように、セットアップの説明は画面上のUIで対応できると考えていました。しかし、視覚障害者は画面が見えません。私たちとしても、振動でナビができるかどうかしか見えていませんでした。実際には、そのハードルがユーザーにとって非常に高く、振動の意味が分からない、付け方を間違えているといったことが多く、そもそもナビ開始すらできていない状態でした。

もう一つ大きな要因は、ユーザーのニーズを理解しきれていなかったことです。私たちは、『あしらせ』が解決できる課題は、「まだ行ったことのない、新しいところへのナビゲーション」を想定していました。しかし、実際に最も多くいただいたご意見が、「ナビされる道が自分の歩きたい道ではない」というものでした。

視覚障害者にとっては、「安全に歩ける道」「自分が訓練した道」が非常に重要なのです。駅から自宅までの慣れた道であれば、障害物も曲がり角も分かります。しかし、慣れているからこそ気を抜いて通り過ぎてしまうことがある。通り過ぎると戻れなくなって迷ってしまいます。だから「自分の歩きやすい道を確実に案内してほしい」というニーズが強かったのです。

『あしらせ』は当初、今いる場所から目的地までを最短距離で行けるルートを抽出していたため、ユーザーが使い慣れているのとは全く違うルートを案内していました。そこで、「一度自分で歩いたら、自分だけのルートを簡単に作れる機能」という形でアップデートしたところ、それが好評で満足度が上がっていきました。

インタビュアー
ユーザーからのフィードバックが、プロダクト改善に効果をもたらしたのですね。振り返ってみると、当初のクラウドファンディングは、Ashiraseの成長にとって良い影響を及ぼしたということでしょうか。
千野

クラウドファンディングは当事者、つまり障害福祉の領域と非常に相性がいいと感じています。150人限定のクラウドファンディングでしたが、参加者は自分でお金を出しているお客様ですから、厳しい意見を投げかけられます。しかしクラウドファンディングなので、参加者は仲間意識を持って私たちを応援してくれています。

クラウドファンディング参加者は、私たちが一緒にプロダクトを作っていく仲間でありつつ、厳しい意見を投げかけるお客様でもあるのです。アンケートの回収率も非常に高く、ヒアリングにも時間をかけて付き合ってくださいました。この1年半で、週に1回程度の頻度でアプリをアップデートし続けましたが、これをやるにはお客様の声が必要です。お客様と密にコミュニケーションできたのは大きかったと思います。

事業展開の戦略——海外展開と屋内ナビ

『あしらせ』の技術を応用した屋内ナビゲーション

国内市場の人口減少と成長鈍化を背景に、日本発スタートアップの多くが、早期からグローバル展開を志向するようになった。しかし、福祉・医療・インフラ系ビジネスにおいて、海外展開は容易ではない。各国で異なる補助金制度、規制、流通構造、文化的背景。これらを読み違えれば、優れた技術であっても簡単に失敗する。

同時に、単一市場・単一プロダクトに依存するモデルは、資本市場からの評価を伸ばしにくい。社会課題解決型スタートアップにとって、事業の横展開は避けて通れないテーマとなっている。Ashiraseは、専門性を失わずに市場を拡張するという難題にどう向き合ってきたのか。その戦略は、この領域の起業家にとって重要な示唆を与えてくれる。

インタビュアー
海外展開では、最初の展開先としてオーストラリア、次の展開先としてドイツを選んでおられます。そこにはどのような戦略があったのでしょうか。
千野

海外展開において、Ashiraseでは、大きく2つのポリシーを持っています。一つは、国レベルで一括して補助金が認可されたり適用されたりする地域を選ぶということ。もう一つは、補助金に明るく、販売能力が強いディストリビューターとネットワークを組めるか、ということです。

日本には、日常生活用具給付等事業という補助金制度がありますが、補助金の適用は自治体ごとで、その判断もまちまちです。全国に1,700の自治体があり、その全てとそれぞれ話をして、適用してもらうというのは、スタートアップにとっては時間軸が合わないことが多くあります。海外展開を考える上でも、展開先には同じことが言えます。

ですから、補助金が一括提供できて、ディストリビューターも強く、売れるネットワークがあるところからローンチしようと考えました。それが一番準備を整えやすかったのがオーストラリアでした。ディストリビューターとは、さまざまなところで出会って関係を構築してきており、現在、5カ国程度の国々とコミュニケーションしています。

ドイツは、EUの中でも中心的な市場です。まず言えることは、EUは交通環境が日本に近いため、私たちのプロダクトとの親和性が高い。また、EUの医療機器認定(クラス1)を申請中で、この規格はEU全体で通用するため、ドイツ以外の他のEU諸国にも進出しやすい。そして、EUの中でディストリビューターの強さ、ある程度の市場感、そしてコネクションがあるかという3つの条件を最も満たしたのがドイツでした。

インタビュアー
視覚障害者向けの屋外ナビから、一般向けの屋内ナビゲーションへと事業を展開されています。この転換はどのような経緯で生まれたのでしょうか。
千野

Ashiraseではこれまで、視覚障害者の屋外ナビゲーションを提供してきましたが、屋外だけでなく、屋内の移動にも強いニーズがあることがわかっていました。駅、地下通路、オフィスなど、さまざまな場所で、視覚障害のある方々は移動に困難を抱えています。そこに資するような技術開発を続けてきましたが、それがようやく実装できる形になりました。

商業施設や不動産デベロッパーなど事業者の方々とお話しすると、視覚障害者以外にも、車椅子の方やベビーカー利用者など、さまざまな方々の課題があることを聞きました。それであれば、視覚障害者向けとは切り離して、屋内ナビゲーションとして提供していこうと考えました。もちろん、提供施設では、『あしらせ』ユーザーも使えるというメリットも当然あります。

私たちが提供する屋内ナビゲーションの強みは、カメラ画像だけでナビゲーションを作れる技術です。施設オーナーがスマートフォンでぐるっと撮りながら歩くだけで特徴量が記録され、それを地図化できます。1,000㎡(編注:バスケットコード2.5個程度)あたり10分程度で撮影が終わります。実際に使うときには、スマホをかざすと、どこにいるか分かる仕組みです。

私たちの仕組みは、ビーコンを使わないため圧倒的な低コストが可能で、施設オーナーは屋内ナビゲーションを従来の10分の1程度のコストで実現できます。私たちは、視覚障害者向けにとっては命取りになるGPSの位置ズレに対し、この4〜5年挑戦し続けてきました。これまで培った人の動きを推定する技術などを組み合わせ、GPS誤差を最小化します。こうした技術は屋内にそのまま応用でき、カメラ画像だけでは足りない位置情報の特定精度を補うことで、低コストと高精度化を実現しています。

インタビュアー
具体的にどのような施設で導入が進んでいるのでしょうか。また、顧客が抱える課題は多様なのでしょうか。
千野

商業施設、オフィスビル、ホテル、鉄道系の施設など、さまざまなところで実装が決まってスタートしています。ある大手不動産デベロッパーのエリアでは、もともとビーコンを650個入れていたのですが、それを入れ替えて、さらにエリア全域に展開する計画があります。大手ホテルではスタッフの教育や管理に、別の大手不動産会社ではインクルーシブオフィス(障害の有無に関わらず誰もが働きやすい環境)の仕組みとして導入されています。

屋内ナビゲーションは、視覚障害者向けというよりは、一般の方向けにサービスとして展開しています。課題は大きく3つあります。一つは、インクルーシブに施設を運営していきたいという視覚障害者に近い文脈の課題。もう一つは、回遊性を上げたり、顧客満足度を上げていくために使いたいというもの。そして、人手不足や品質強化のために従業員向けに使いたいという課題です。

インタビュアー
市場を広げつつ、視覚障害者起点という原点を維持するのは難しい部分だと思います。この両立をどのように設計されているのでしょうか。
千野

現在は、視覚障害のない人にも使っていただけるサービスを開発し、そこには課題があって価値提供できるため、資金調達が実現できているという構図です。ただ、私が絶対にこだわっているのは、私たちのサービスが導入された先で、視覚障害のない人だけでなく、必ず視覚障害者が嬉しくなるところが紐づいているか、ということです。

視覚障害のない人だけが助かればいいという話ではなく、最終的に、視覚障害のない人向けに展開したサービスが視覚障害者にも役に立つということ、プロダクトとしての『あしらせ』に繋がることが担保されているということ。この相乗効果を生み出せるように、ビジネスを設計しています。

未来への布石——求めるリソースとビジョン

プロダクトが一定の評価を得た後、多くのスタートアップは「第二の壁」に直面する。それは、組織化、再現性、競争優位の構築という、経営フェーズの転換だ。創業者の個人能力や初期メンバーの献身だけでは、事業はスケールしない。技術、データ、人材、アライアンス——それらをどう組み合わせ、構造的な強さに変えていくかが問われる。

特にリアル空間を扱うプラットフォーム型ビジネスでは、先行優位をどこまで築けるかが、将来価値を大きく左右する。Moat(競合優位性の堀)構築は時間との戦いでもある。Ashiraseは、次の成長局面に向けて、どのような布石を打とうとしているのか。その構想は、同時に日本発スタートアップが技術で社会課題に挑む可能性を映し出している。

インタビュアー
これから更に事業を成長させていく上で、今最も必要としているリソースは何でしょうか。
千野

正直なところ、どのポジションも人が欲しいです。特に今は、Moatを作るための技術開発を進めています。私たちがやっているのはリアルな場所での実装なので、リアルな場所でプラットフォームになっていけると、Moatとしては非常に強くなります。早くその状態にしていくことが市場攻略だと思っています。

このプロセスにおいては、ビジネスの0→1というよりは、1→100が得意な方が必要です。また、技術のMoaに資するような、アカデミックな領域のエンジニアも求めています。

パートナーシップについては、大規模プラットフォームへの統合や、大企業との協業を視野に入れています。販路や顧客接点を持つ企業と連携できれば、一気にユーザーを拡大できます。そうした出口を持つパートナーとの協業は、私たちとしても今、積極的に動きたいと考えていますので、そういったポジションで活躍いただける人材を求めています。

私自身は技術者なので、コンテンツデザインが得意ではありません。Ashiraseから派生するIPビジネスやキャラクタービジネスには興味がありますが、そのような分野はパートナーと組むのがいいと思っています。例えば、ARコンテンツでIPキャラクターが案内していくとか、『あしらせ』を使って足に感じた振動で宝探しをするとか、世界中のユーザーが同時に戦えるコンテンツも作れるかもしれませんね。

インタビュアー
最後に、Ashiraseが目指している未来像について教えてください。テクノロジーを使って、どのような社会を実現したいと考えていますか。
千野

私たちにとってテクノロジーは重要ですが、提供したいのは人の豊かさにつながるサービスを作っていくことです。何よりも人の歩行に興味があり、それは結局、リアルな場所と必ずつながるのです。

ですから、私たちがやろうとしているのは、リアルな場所と人をつなぐエージェントのようなものです。それによって助けられる人、救われる人、応援できる人が、まだまだたくさんいるのではないかと思っています。

車椅子の人がここを通ればエレベーターに簡単に行けるというだけでも、非常に嬉しいかもしれません。ベビーカーを押す人もそれで救われます。ハードインフラはお金をかけないと変わりませんし、時間もかかります。そこにデジタルやソフトウェアの力が間に入ることで、より豊かになっていくのではないかと思っています。その一つが『あしらせ』であり、「屋内ナビゲーション」であると位置づけています。

千野氏の語る言葉には、起業家としての冷静さと、社会課題に向き合う熱量の両方が宿っていた。

「社会課題だからこそ市場ができていない」という逆説的な視点。満足度30%という厳しい現実に直面しても、ユーザーと対話を重ね、週1回のペースでアップデートを続ける執念。視覚障害者という限定的な市場から始めながら、屋内ナビという一般向けサービスに展開することで市場を拡大する戦略——理想と現実のバランスを取りながら前進し続ける起業家の姿がそこにあった。

「私が生きている間に、いろいろな方にサービスを届けるには、非常に早く進めないといけない。だからこそ、エクイティによるスタートアップの世界の中に私たちが入っていくことで、社会課題の早期解決につながるのではないかと思っています。」(千野氏)

Ashiraseの挑戦は、社会課題解決型スタートアップが「志」と「リターン」を両立できることを証明しつつある。市場が小さいからこそ、設計次第で大きく化ける——その可能性を、千野氏は現場から示してきた。

「歩く」という最小単位の行動から始まった事業は、いま、インクルーシブな社会インフラへと進化しつつある。その行方は、技術で社会課題に挑む日本発スタートアップの未来を占う試金石となるだろう。

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