採用を設計し直す。——ZENKIGENが1,500万件のデータと覚悟で変えようとしていること

採用を設計し直す。——ZENKIGENが1,500万件のデータと覚悟で変えようとしていること

採用を設計し直す。——ZENKIGENが1,500万件のデータと覚悟で変えようとしていること

2030年に644万人の労働力不足が予測される日本では、採用難による「黒字倒産」が現実に起き始めている。データでは、内定辞退率は63.8%(2024年卒業者、リクルート就職みらい研究所による)、採用充足率は70%(2025年卒業者、マイナビによる)にとどまる。しかし問題の本質は、数字よりも深いところにある。「大量に集めて大量に落とす」という採用のロジック自体が、時代に合わなくなっているのだ。 ZENKIGENは、採用DXサービス「harutaka(ハルタカ)」を手がけるAIテックスタートアップだ。2017年の創業以来、1000社以上の採用プロセス改革を支援。1500万件のデータを保有し、面接動画などをAIを活用して解析してきた。代表取締役CEOの野澤比日樹氏は、インテリジェンス(現パーソルキャリア)、サイバーエージェント、ソフトバンクグループを経て2017年に同社を創業した。 「従来の採用モデルは、転換期を迎えています」と野澤氏は言う。採用が変われば組織が変わり、組織が変われば社会が変わる——その確信のもと、同氏が今何を見て、何に賭けようとしているのかを聞いた。

インタビュイー

株式会社ZENKIGEN 代表取締役CEOのプロフィール写真
野澤 比日樹 株式会社ZENKIGEN 代表取締役CEO
1998年 株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)に新卒入社。 1999年 創業期の社員数10人未満のサイバーエージェントに入社。大阪支社立ち上げ、社長室、事業責任者としてマザーズ上場を含む会社の急成長に貢献。 個人最高賞の社長賞、組織最高賞のCAJJ賞受賞。事業責任者として当時最短での営業利益1億円を突破。 2011年 ソフトバンクアカデミアに外部1期生として参加する中で孫正義会長から声がかかりソフトバンクグループの社長室に入社。 電力事業であるSB Power株式会社の設立、事業立ち上げに営業責任者として電力小売事業を立ち上げる。 電力完全自由化となり個人向けの日本初の森林寄付型の「自然でんき」を発案から販売まで事業責任者として従事。 2017年10月 当社創業現在に至る。

株式会社ZENKIGEN

スタートアップ
東京都 2017年10月設立
当社は「はたらく人の理想」をつくるために、高度なテクノロジーを活用して採用領域と職場領域の組織課題を解決するAIテックカンパニーです。 主力事業の採用DXサービス「harutaka(ハルタカ)」は、採用データとAIの活用により採用戦略から選考、振り返りまでの一連のプロセスを最適化し、企業と応募者の双方にとってより良い「採用体験」を提供することで企業の採用力向上を実現するトータルソリューションサービスです。 また、AIによるコーチングで従業員の目標達成意欲を高め、企業の成長を支援する「コレドウ目標設定」の提供により、採用の先の“はたらく”職場領域の変革を実現します。 サービスにおいて活用するAI技術は、当社が保有する約1,500万件の動画データをもとに、深層学習などの技術と採用領域の専門的知見を活用し、独自に構築したマルチモーダルAIです。

2030年に644万人の労働力不足が予測される日本では、採用難による「黒字倒産」が現実に起き始めている。データでは、内定辞退率は63.8%(2024年卒業者、リクルート就職みらい研究所による)、採用充足率は70%(2025年卒業者、マイナビによる)にとどまる。しかし問題の本質は、数字よりも深いところにある。「大量に集めて大量に落とす」という採用のロジック自体が、時代に合わなくなっているのだ。

ZENKIGENは、採用DXサービス「harutaka(ハルタカ)」を手がけるAIテックスタートアップだ。2017年の創業以来、1000社以上の採用プロセス改革を支援。1500万件のデータを保有し、面接動画などをAIを活用して解析してきた。代表取締役CEOの野澤比日樹氏は、インテリジェンス(現パーソルキャリア)、サイバーエージェント、ソフトバンクグループを経て2017年に同社を創業した。

「従来の採用モデルは、転換期を迎えています」と野澤氏は言う。採用が変われば組織が変わり、組織が変われば社会が変わる——その確信のもと、同氏が今何を見て、何に賭けようとしているのかを聞いた。

「黒字倒産」が現実になる前に——採用モデル転換の本質

野澤氏のキャリアは、一見では脈絡が無さそうにさえ見える。インテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社し、創業期のサイバーエージェントへ転じてマザーズ上場に貢献。ソフトバンクアカデミア外部1期生として孫正義氏に声をかけられ、SB Powerで電力事業を立ち上げた。そしてHRで起業した。

この軌跡を貫く2つの共通点がある。すべての局面で新規事業を立ち上げ続けてきたこと。そして「For Our Next Generations(未来の世代にまで繋がる、幸せな社会を創造する)」という言葉にすべての動機が集約されること。32歳のときに人生の使命を問い直し、35歳の東日本大震災がその確信を深めた。ギャラップ社の調査で「熱意を持って仕事に向き合う社員の割合」が145カ国中最下位(5%前後)という日本の現実を知ったとき、野澤氏には次にやるべきことが見えた。

「日本は30年間負け続けてきた。そのまま次の世代に渡すわけにはいかない」——HRへの起業は必然だった。そして今、採用モデルの転換という現実が、この使命をより切迫したものにしている。

インタビュアー
野澤さんはインテリジェンス(現パーソルキャリア)でHR業界に入り、その後サイバーエージェント、ソフトバンクと渡り歩いて電力事業まで手がけました。そのキャリアからHRでの起業に戻ってきた理由は何だったのでしょうか。
野澤

一見バラバラに見えるキャリアですが、共通していることが2つあります。ひとつは、すべての局面で新規事業を立ち上げてきたこと。サイバーエージェントでも大阪支社の立ち上げや新規事業を担当しましたし、ソフトバンクでの電力事業も当時は前例のない取り組みでした。

もうひとつの共通点は「次の世代に何を残せるか」という軸です。32歳のときに自分の人生の使命を考える機会があって、この問いがすべての動機の根底にある。東日本大震災後に電力事業に飛び込んだのも、原発に頼らない社会を次世代に残したいという思いからでした。HRで起業したのも、まったく同じ文脈です。

インタビュアー
「次の世代のために」という使命がHRと結びついた理由は、どこにあったのでしょう。電力と人事では、一見遠い領域のように思えますが。
野澤

ギャラップ社が145カ国を対象に行っている調査で、日本の「熱意を持って仕事に向き合う社員の割合」は長年5%前後です。昨年は145カ国中最下位という結果でした。30年間負け続けていて、このまま行けばさらに50年、100年と負け続ける。そういう日本を次世代に残すことはできない。

大人が最も長い時間を使うのは仕事です。仕事を通じて人が全機現(「すべての機能・能力をこの一瞬に完全に現す」という禅語の一種。ZENKIGENでは「人が持つ能力のすべてを発揮する」と定義している。)できる社会をつくるために起業するのは、自分の使命からすると必然の選択でした。だから社名も「ZENKIGEN」にしました。

インタビュアー
「熱意を持って仕事に向き合う大人が5%しかいない」という日本の現実を変えるための起業だったのですね。その問題意識から見ると、現在の日本の採用の仕組みにはどのような構造的な課題があるのでしょうか。
野澤

従来からの採用のロジックというのは「人をたくさん集めて、たくさん落として、最終的に数%採る」というピラミッド型の構造です。企業が選ぶ立場だった時代に設計されたモデルです。でも内定辞退率が63%を超えている今、企業が選んでも応募者に断られてしまう。さらに労働人口が減り続けると、そもそも集める人数が確保できなくなる。

大量に集めるという前提が崩れれば、大量に落とすというプロセス自体が意味をなさなくなります。「採るべき人を採りきる」という完全に異なる設計思想が必要で、それを支えるインフラが整っていない企業は事業継続自体が難しくなっていく。「人が採れなくて黒字倒産」は、すでに現実に起きていることです。

「従来の採用」モデルから、データとAIを活用した「採用DX」モデルへの転換。
Image credit: ZENKIGEN
インタビュアー
その危機感はいつ頃から、採用市場全体に伝わり始めたのでしょうか。ZENKIGENはAI×採用の領域で早くから動いていたにもかかわらず、なかなか市場が動かなかった時期があったとも聞きます。
野澤

ここ半年から1年ほどで、明らかに変わりました。それまでは、どれだけAIの価値を説明しても「興味はあるけど、うちはまだ早い」「上司を説得できない」という反応がほとんどでした。2つ理由があって、ひとつは機密性の高い情報を扱っていたこと。もうひとつは、アナログでの業務が多く、人事部門にデータや技術に親しんだ人材が少なかったことです。

最近は、こちらから働きかけなくても問い合わせが来る。特にAI面接官への反応が顕著で、人事部門がこれほど前のめりになったことは、創業以来初めてかもしれません。まだ情報収集の企業が多いですが、私たちが良い提案をすることでDXを加速させていきたいと思います。

面接はブラックボックスだった——データで変えた大塚商会との5年間

「面接は完全なブラックボックスだった」——野澤氏の言葉は比喩ではない。どの面接官が何をどう質問したか、応募者がどんな反応を示したか、何が内定承諾と辞退の分岐点だったか。録画も数値化もされていない「人対人の対話」が、採用の成否を左右していた。

「harutaka」はこのブラックボックスにデータの光を当てるプロダクトだ。面接官の笑顔度、相槌の回数、応募者の発話比率、承認・肯定発言の具体性レベル——こうした指標と内定承諾率、そしてデータ蓄積をした後に行う入社後の活躍との相関分析により、採用プロセス全体を「科学的に改善可能なもの」に変える。「AI面接/録画面接→Web面接→AI要約→採用分析」という一気通貫の設計は、採用を効率化するだけではなく、採用の質そのものを変える。

大塚商会との5年間の取り組みは、その変革を体現する事例だ。出発点は「面接品質可視化」プロジェクトだった。録画された面接動画を見た人事部長が、初めて自社の面接の実態を目の当たりにしたとき、危機感が走った。

「笑顔度が低い面接官ほど応募者のアンケートスコアが下がる」
「相槌の回数が少ない面接官ほど辞退率が高い」

データは感情論を排除して、改善の必然性を突きつける。分析の知見を研修に落とし込み、個別フィードバックを継続した結果、2023年に内定承諾率が20ポイント向上。さらに、分析を進め追加の施策を行ったところ、2024年には就職人気企業ランキングで29位から12位(理系分野)へ、2025年には女性内定承諾率が例年の2倍に達した。

Image credit: ZENKIGEN
インタビュアー
「人事部門がデータとAIの活用に前のめりになった」とおっしゃいましたが、いざ向き合ってみると、多くの企業はまず何に躓くのでしょう。ZENKIGENが大塚商会と5年間向き合ってきた経験から言うと、変革の最初の壁はどこにありますか。
野澤

最初の壁は「面接の実態を見る勇気」です。大塚商会様との取り組みで言えば、出発点は「面接品質可視化」プロジェクトでした。「harutaka」で録画された面接動画をAIで解析し、面接官ごとに笑顔度・相槌の回数・応募者の発話比率・承認や肯定発言の具体性レベルといった指標を数値化して、管理職に一覧で見せるというものです。

それを最初にご覧になった人事部長が「こんな面接をしていたのか」と驚かれた。面接はずっとブラックボックスで、何が行われているかを把握できていなかったのです。熟達した面接官とそうでない面接官の差が数値で出たとき、「これは変えなければいけない」という動機が一気に生まれました。データは感情論を排除して、事実から改善の必然性を導き出してくれる。その力を実感した瞬間でした。

インタビュアー
「面接品質可視化」から始まって5年間、どんなサイクルで変革が積み上がっていったのでしょうか。面接官の質を上げる以外にも、手を入れた領域があると聞いています。
野澤

面接官の改善だけで終わっていないのがポイントです。もうひとつの大きな取り組みが、「若手活躍人材分析」——つまり実際に入社して活躍している社員のコンピテンシー分析です。「今、大塚商会で成果を出している人は、採用時の面接でどんな振る舞いをしていたか」をAIで逆引きすると、採用時点ではなかなか言語化できていなかった「我が社で伸びる人の共通項」が見えてくる。その知見を採用基準に反映させることで、単に面接官を磨くだけでなく「どんな人を採るか」の精度自体も上がっていきました。

「面接品質可視化」でプロセスを改善し、「若手活躍人材分析」で基準を研ぎ澄ます。この2つのサイクルを回し続け、それに合わせた施策を行った結果が、2023年の内定承諾率20ポイント向上、2024年の就職人気ランキング29位→12位(理系分野)、2025年の女性内定承諾率2倍という数字に現れています。

インタビュアー
これだけ具体的な成果が出ているのに、多くの企業がまだ採用の改善に手をつけられていません。今まさに採用に向き合っている人事担当者に、「まず今日からすべきこと」を伝えるとしたら、何を伝えますか。
野澤

最初の一歩のハードルが高く見えているだけで、実は今日からできることがあります。まずデータを集めて欲しい。データがないと何もできない。その中で、動画データはテキスト情報とは比較にならないほどのデータが詰まっています。蓄積したデータを見れば自社の面接の実態が見えてくる。

辞退の理由の約80%が「面接体験が悪かった」「面接官と一緒に働きたいと思えなかった」というデータがあります。採用広報にどれだけ投資しても、最後の接点である面接官の振る舞いがすべてをひっくり返しています。大塚商会様が5年かけて変わったのは事実ですが、最初の一歩は面接を録画するというひとつの行動でした。採用は、今この瞬間から変えられます。

シリーズCは通過点、次の3年で何を仕掛けるか

2021年12月、SaaSバブルの崩壊直前にシリーズBを完了したZENKIGEN。翌月からPSR(株価売上高倍率——売上高に対して株価がどれだけ高く評価されているかを示す指標で、成長期待の高いSaaS企業ではかつて10倍超が当たり前だった)は急落し、業界全体で投資家の目線が「成長期待」から「収益の実態」へと厳しくなった。以来4年半、同社はひたすらプロダクトを磨き、オーガニックな成長基盤を作り続けた。

そして2024年初頭、ラスベガスのHRテクノロジーカンファレンスで野澤氏は確信を得る。Agentic AIの波が、想像以上の速さで来る——その判断のもと、1年間をかけて既存システムの全面再設計(リアーキテクチャ)に踏み切った。

シリーズCはこの変革の完成を受けたタイミングの調達だ。そして野澤氏が伝えたいのが、シリーズCは「完了」ではなく「起点」であること。新卒採用ではATS(採用管理システム)との密連携で業界トップの地位を固めてきたが、中途採用はそれ以上の「最大の市場」だと野澤氏は見ている。そこへ中途採用のATSとの連携を軸に踏み込むのが最初の取り組みだ。

インタビュアー
面接体験を変えれば、応募者から選ばれる企業に変われる。大塚商会の事例はそれを数字で示しました。その実績を踏まえて、ZENKIGENの事業としては次にどこへ向かおうとしているのでしょう。シリーズBからシリーズCまで4年半の期間に、何を積み上げてきたのか、改めて聞かせてください。
野澤

プロダクトを強くすることに尽きます。2022年以降、SaaSのPSRという評価基準自体が崩れました。それまでは「これだけ成長しているなら将来は大きな売上になる」という期待値で高く評価されていたSaaS企業が、「今の売上の実態はどうか」という目線で見られるようになった。

でも、そういう環境だったからこそプロダクトの本質的な強さに集中できました。競合だった企業のM&Aによる顧客基盤の拡大(編注:2024年2月、ZENKIGENはエクサウィザーズ「インタビューメーカー事業」を買収)、圧倒的な市場シェアNo.1の確立、価格主導権の獲得、そしてリアーキテクチャへの投資——この3点に集中した4年間でした。外から見れば地味な時期かもしれませんが、土台無しに高層ビルは建ちません。この4年間がなければ、ここにいなかったと思っています。

インタビュアー
土台を固めながら、同時にシステム基盤の全面再設計にも踏み切ったとのことですね。既存をすべて捨てるというのは、相当の覚悟が必要だったと思いますが、何がその決断を後押ししたのでしょう。
野澤

毎年参加しているラスベガスのHRテクノロジーカンファレンスで、1年前にAgentic AIが本格的に来るという確信を得ました。Agentic AIというのは1つのAI Agentを入れることではなく、複数のAI Agentが互いに会話しながらタスクを処理していく仕組みです。これを既存の継ぎはぎシステムに入れようとすると、どこにバグが出るか予測できないためガードレールを引くしかない。でもガードレールだらけのAgentic AIはチャットボットと大差ありません。Agentic AIの自律性という本質的な価値が死んでしまう。

だから「Agentic AIが縦横無尽に動けるアーキテクチャ」を最初から設計し直した。次の5年で確実に必要になるものへの先行投資だという確信がありました。

インタビュアー
そのリアーキテクチャが完成し、シリーズCの調達を終えました。「これで完了」ではないとのことですが、次のフェーズでは具体的にどんな成長曲線を描こうとしているのでしょう。
野澤

3つの軸で動きます。

まず中途採用市場への本格進出です。新卒採用では主要なATSとの密連携で業界トップの地位を固めてきましたが、中途採用市場はそれ以上の「最大の市場」だと認識しています。そこへ入っていきます。

2つ目がリアーキテクチャによるAgentic AI機能の本格展開。Agentic AIが伴走し、採用担当者が今まで数時間かけていた業務を効率化・高度化します。

3つ目が「harutaka」を採用の外側から職場の内側へと染み出させること——採用から職場定着・活躍まで、一本のデータの軸でつなぐプラットフォーム化です。

ベンダー・経営&人事・投資家が担うべき役割

AIが採用・人事に入り込むとき、楽観論だけでは済まない。野澤氏は自らその「危惧」を率直に語る。スコアが一人歩きするリスク、「過去に活躍した人材のパターン」を学習させることで特定の型から外れた逸材を落とすリスク、バイアスが固定化するリスク——これらはいずれも「AIが人の可能性を広げる」のではなく「AIが人の選択肢を狭める」方向に働く可能性がある。

そして野澤氏が核心として強調するのは、これらのリスクはZENKIGENがどれだけ良いプロダクトを作っても、ZENKIGENだけでは回避できないという認識だ。AIを「使う側」の経営・人事がポリシーを持たなければ、道具は凶器になる。その変化を後押しする投資家が長期的な視点を持たなければ、短期ROIのためにAIが利用される。

「人生で大切な節目である就職・転職において、AIに合否を判断されるのは不幸せなことだと考えています」——この言葉が、野澤氏のAI観を端的に表している。

AIが社会変革のツールになるか、排除と画一化の道具になるか。その分岐点は、ベンダー単体の設計ではなく、三者(ベンダー・経営&人事・投資家)が役割を担うエコシステムにある。

インタビュアー
ZENKIGENは中途採用市場に打って出ようとしています。AIが採用判断に関与していく世界というのは、同時にリスクをはらんでいるとも言えるでしょう。野澤さん自身、AIが採用に深く関与することへの懸念はどのように考えていますか。
野澤

非常に重要な問いで、私自身が2つの懸念を持っています。

一つはスコアの一人歩きです。AI解析が「この応募者のスコアは75点」と出したとき、人事が「じゃあ落とそう」となると本末転倒です。スコアはあくまで「より深く見るべき観点」を示すもので、最終判断は必ず人間が行う。この原則を守らないと、AIは人の可能性をなくすツールになりかねない。

もう一つは多様性の喪失です。「過去に活躍した人材のパターン」をAIに学習させると、そのパターンから外れた逸材を落とすようになる。高校の野球部で喩えるなら、「過去の甲子園メンバーに似た人を採る」ことだけを最適化すると、次の時代を変える型破りな選手を見逃す可能性があります。イノベーターはコンピテンシー上しばしば「変わった人」です。AIで採用を画一化すれば、組織が同質化していく可能性もあるでしょう。

インタビュアー
その懸念は、プロダクトの設計でどう回避しようとしているのですか。一方で、「プロダクトの設計だけでは不十分」ともおっしゃっていますよね。
野澤

私たちは「AIが採否を決める」という設計は絶対にしません。AIの分析結果には必ず根拠を付けて、どの発言・どの振る舞いからその評価が導かれたかを人間が確認できるようにしています。ブラックボックスのAIは使わないという原則です。

ただ、それだけでは確かに不十分です。良いプロダクトを作っても、使い手が正しく使わなければ意味がない。面接官の質を数値で可視化しても、「こんなデータを出すな」と考慮外とする組織があれば変革は起きません。AIの出力を鵜呑みにして人間が思考停止すれば、むしろ採用の精度が下がります。

インタビュアー
では、プロダクト設計だけでは解決できない部分を、誰が担うべきだとお考えですか。「三者が連携しなければ変わらない」というお話を以前聞いたことがありますが、具体的にはどういう役割分担でしょう。
野澤

使い手である経営・人事が「AIは補助ツールであり最終判断は人間が行う」というポリシーを持つことが不可欠です。人生で大切な節目である就職・転職において、AIに合否を判断されるのは不幸せなことだと考えています。 AIは決して完璧ではない。その原理原則を忘れずに活用する必要があります。そして投資家には「短期的なROIだけでAIツールを評価しない」視点を持ってほしい。人材の多様性や組織の長期健全性は四半期の数字に表れにくい部分です。ベンダーが正しい設計をして、経営・人事が正しく使って、投資家がその実現を後押しする——この三者のエコシステムが揃って初めて、AIは採用を公正化するツールになります。

インタビュアー
三者が揃ったとき、ZENKIGENが実現したい「適材適所」の最終形はどういう姿ですか。採用だけでなく、職場まで含めた人材マネジメント全体の話ですよね。
野澤

AIが最も得意とするのはマッチングです。データさえあれば、その人がどの職種に適しているか、どの部門で伸びるか、どんな育成がフィットするかを、精度高く示せます。採用だけ良くても適材適所は実現しません。

入社した人をどの部門に配属し、どう育成し、どう活躍させるか——「harutaka」で採用時に蓄積した応募者の動画データと、入社後の活躍データを連携させると、「活躍する人材は採用時にどんなコンピテンシーを示していたか」が見えてきます。それを採用基準に反映させ、さらに配属・育成の指針にも活かす。採用から職場定着・活躍まで一本のデータの軸でつなぐことが重要です。人間中心のAIと事業成長は対立しません。その結果として採用の精度が上がり、入社後の活躍率が上がる。大塚商会様で内定承諾率20ポイント改善、就職人気ランキング17位押し上げという数字は、「人間中心」を徹底した上で出たものです。

一緒に変えてほしい——顧客、投資家、仲間へのメッセージ

野澤氏が「共に仕事をしたい相手」は、驚くほど明確だ。採用の質を上げたいこと。人と組織を本気で変えたいこと。「コスト削減だけが目的のパートナーとは方向性が一致しない」と話す。理由は建前ではない。「社員の命の時間を、大切にしたいんです」——この一言に、ZENKIGENというカルチャーの核が凝縮されている。

中途採用市場への本格進出を前に、ビジネスパートナー・投資家を求めている。エンジニア採用の強化とともに、「一緒に設計図を作れる」仲間を探している。そしてグローバル展開については「まず日本で勝ち切る」という慎重さを維持しながらも、世界に出て、広く社会に貢献するという夢を持つ。

インタビュアー
採用から職場までデータでつなぐという設計図は、中途採用市場に入ることによってさらに加速するでしょう。その展開を前に、どんなパートナーを求めていますか。
野澤

HRの文脈で動画・AI分析の価値を顧客に届けられる、理解度の高いパートナーを求めています。「採用をデータとAIで変える」という価値観を、顧客に一緒に伝えられる組織と組みたい。コスト削減だけが目的のパートナーとは方向性が一致しません。

社員の命の時間を、大切にしたいんです。採用の質を上げたい、人と組織を本気で変えたいという信念を持つパートナーと組むことが、私たちにとって最大のパフォーマンスを発揮できる環境です。今回リンクアンドモチベーション様が投資家として入ってくれたことも、エンタープライズへの強いチャネルと同じ志を持つパートナーという意味で、大きな前進です。

インタビュアー
「社員の命の時間を大切にしたい」という言葉は、経営哲学の核心を突いていますね。ZENKIGENという組織そのものも、そういう思想で動かそうとしているのでしょうか。一緒に働く仲間への期待を聞かせてください。
野澤

「自分のエンジンで動ける人」が求める人物像です。私が細かく指示を出す経営スタイルではないし、そういう組織にしたくない。自立した社員が自分のエンジンで動く組織を作ることが、人の力を結集することだと信じているから、現場への権限委譲を徹底しています。

もう一つは「なぜやるかを語れる人」。機能を実装するだけでなく、それが誰の何をどう変えるのかを考えながら仕事できる人。社員の命の時間を使っている場所ですから、意味のある仕事に時間を使いたいという人間と一緒に戦いたいと思っています。

インタビュアー
最後に、事業の将来像をもう少し先まで聞かせてください。日本で勝ち切った後、グローバルへという話は以前からされていますが、今はどのくらいのリアリティを持って描いていますか。また、投資家やパートナーとして「これからZENKIGENと共に歩みたい」と思う方へのメッセージを。
野澤

今すぐグローバルに出るわけではありません。経営リソースを分散させることは、私が一番避けるべきことだと考えています。まず日本でやるべきことをやり切る。日本市場はHRの観点からもペインが大きく、データも積み上がっている。ここで勝ち切ったプロダクトを次のステップでグローバルに展開します。

今まさに、リアーキテクチャが完成し、Agentic AIが動き始め、中途採用の領域への展開が始まろうとしています。日本の適材適所を共に実現していくパートナーを求めています。

ZENKIGEN 社員総会2025の様子
Photo credit: ZENKIGEN

「全機現」という言葉は、禅の概念に由来する。すべての機能・能力をこの一瞬に完全に現す、という意味だ。野澤氏はこの言葉を社名に選んだとき、こう語っていたという——「人が全機現できる社会をつくる、という一文さえあれば、私たちがどこを目指しているか、すべて説明できる」と。

採用は入口であり、入社後の配置・育成・活躍まで人とデータをつないで、「その人が最も力を発揮できる場所に身を置く」という全機現がさらに実現する。

ただし野澤氏は最後にこう言った。「それはZENKIGENだけでは達成できない。使い手と投資家が一緒に変わらないと、日本は変わらない」。面接のブラックボックスを壊しても、データを軽視する組織があれば変革は起きない。AIの出力を鵜呑みにする人事がいれば、むしろ採用の精度は下がる。社会を変えるには、三者が同じ方向を向く必要がある。

その設計図は、すでに描かれている。あとは、一緒に戦う仲間が揃うかどうかだ。

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